いつもの長い前置きはしない。このミュージックビデオを見て欲しい。
ただ、あなたがVALORANTというゲームについてよく知らないなら、たった一つだけ事前情報が必要かもしれない。
サムネイルにもなっている黄色い髪の男性はゲッコーというキャラクターであり、彼や銃器が出ている時はゲームの中の表現だと思っていい。逆に言うと、それ以外は現実世界の描写だ。
……観た?
改めて少し説明を挟むと、この動画はVALORANTというタイトルの世界大会に寄せられた公式MVだ。Riot社のもう一つのビッグタイトルであるLeague of Legendsの伝統を引き継ぎ、年に一度、eスポーツの最高峰に向けて書き下ろされる楽曲、そしてPVの最新作。
そして自分は、その中での最高傑作であると最初の視聴で確信した。
MVで描かれる物語は至ってシンプルだ。
一人のティーンエイジャーが友人たちと青春を送り、様々な経験をする中で、彼がヒーローになったのはゲームというジャンルにおいてだった。しかしモラトリアムは永遠には続かない。やがて彼らは成長し、それぞれの進路を歩んでいく。それでも彼はゲームと共に在り続けた。プロプレイヤー"HANDFOOL"として、スターダムに立つ。
このストーリーに、一見反するような歌詞と、世界大会のテーマでもある"ONE MORE"が、奥行を持たせている。
Why am I playing with time as it's ticking away?
It's tickin' away, away, I'm askin'
Why, we run for our lives, not a second to waste?
You're tickin' away, away, away
なぜ僕はいたずらに時を過ごす?
時は過ぎる 刻一刻と
なぜ僕らは走り続ける?1秒すらも 惜しむように
時は過ぎる 刻一刻と
今や天下に名を轟かすゲームパブリッシャーであり、世界一のeスポーツ運営*1であるRiotは、この物語を、華やかなシンデレラストーリーではなく、ある青年の一つの普遍的な選択として描いた。
ゲームに青春を捧げてもいい。ゲームに人生を捧げてもいい。有限の時間の中で、"もう一度"挑戦したいという感情に、身を委ねていい。そんな奴がいてもいいという祝詞。
そして、そんな愚直な奴らが輝ける場所を、文化を、我々は作り上げた。そういう、あまりに力強いゲーム会社の自負を感じて、俺は嬉しかった。
逆に、ゲームのことをゆっくりと忘却し、大人としてそれぞれの人生を辿り始める人々のことをも、決して否定しない。全ての経験が思い出として人生を彩る。そしてまた、HANDFOOLを心の底から応援しに、"もう一度"戻ってきたっていいのだ。
巧拙、時間、時代を問わず、このMVは「ゲームを楽しんだ人たち」と「その時間」を、肯定してくれるように思えてならない。
このMVが贈られた世界大会、VALORANT Champions 2023は今週末からアメリカ・ロサンゼルスで開催される。
eスポーツのA級タイトルの中では、VALORANTは観戦に必要な予備知識が少ないほうと言える。日本代表も、東京*2大会の出場を逃す屈辱から、本大会の出場まで這い上がってきた。ぜひ見届けて欲しい。