Ticking AwayのMVは全てのゲーマーへのアンセムだ

 

 いつもの長い前置きはしない。このミュージックビデオを見て欲しい。

 ただ、あなたがVALORANTというゲームについてよく知らないなら、たった一つだけ事前情報が必要かもしれない。

 サムネイルにもなっている黄色い髪の男性はゲッコーというキャラクターであり、彼や銃器が出ている時はゲームの中の表現だと思っていい。逆に言うと、それ以外は現実世界の描写だ。

 

youtu.be

 

 

 ……観た?

 

 

 

 改めて少し説明を挟むと、この動画はVALORANTというタイトルの世界大会に寄せられた公式MVだ。Riot社のもう一つのビッグタイトルであるLeague of Legendsの伝統を引き継ぎ、年に一度、eスポーツの最高峰に向けて書き下ろされる楽曲、そしてPVの最新作。

 そして自分は、その中での最高傑作であると最初の視聴で確信した。

 

 

 MVで描かれる物語は至ってシンプルだ。

 一人のティーンエイジャーが友人たちと青春を送り、様々な経験をする中で、彼がヒーローになったのはゲームというジャンルにおいてだった。しかしモラトリアムは永遠には続かない。やがて彼らは成長し、それぞれの進路を歩んでいく。それでも彼はゲームと共に在り続けた。プロプレイヤー"HANDFOOL"として、スターダムに立つ。

 このストーリーに、一見反するような歌詞と、世界大会のテーマでもある"ONE MORE"が、奥行を持たせている。

 

Why am I playing with time as it's ticking away?
It's tickin' away, away, I'm askin'
Why, we run for our lives, not a second to waste?
You're tickin' away, away, away

なぜ僕はいたずらに時を過ごす?
時は過ぎる 刻一刻と
なぜ僕らは走り続ける?1秒すらも 惜しむように
時は過ぎる 刻一刻と

 

 今や天下に名を轟かすゲームパブリッシャーであり、世界一のeスポーツ運営*1であるRiotは、この物語を、華やかなシンデレラストーリーではなく、ある青年の一つの普遍的な選択として描いた。

 ゲームに青春を捧げてもいい。ゲームに人生を捧げてもいい。有限の時間の中で、"もう一度"挑戦したいという感情に、身を委ねていい。そんな奴がいてもいいという祝詞

 そして、そんな愚直な奴らが輝ける場所を、文化を、我々は作り上げた。そういう、あまりに力強いゲーム会社の自負を感じて、俺は嬉しかった。

 

 逆に、ゲームのことをゆっくりと忘却し、大人としてそれぞれの人生を辿り始める人々のことをも、決して否定しない。全ての経験が思い出として人生を彩る。そしてまた、HANDFOOLを心の底から応援しに、"もう一度"戻ってきたっていいのだ。

 巧拙、時間、時代を問わず、このMVは「ゲームを楽しんだ人たち」と「その時間」を、肯定してくれるように思えてならない。

 

すべての膝の傷跡、仲間、そして傷心に捧ぐ

 

 

 

 このMVが贈られた世界大会、VALORANT Champions 2023は今週末からアメリカ・ロサンゼルスで開催される。

 eスポーツのA級タイトルの中では、VALORANTは観戦に必要な予備知識が少ないほうと言える。日本代表も、東京*2大会の出場を逃す屈辱から、本大会の出場まで這い上がってきた。ぜひ見届けて欲しい。

*1:こう表現しても、不満はあれど異論はないだろう

*2:千葉