自分がバーチャルYoutuberを視聴しない理由を言語化する試みは結構簡単だった。
それは人が遊ぶのを見てるより自分がゲームで遊びたいとか、そもそも配信者を見る土壌が自分の中になかったとか、まあ色々あるのだが、最たるものは「Virtualの解釈違い」だったのかな、という気がする。
バーチャルリアリティーと聞いて夢描いた経験は現代を生きる人間ならば必ずあると思っている。少なくとも俺はある。
その世界観の基軸はまあ.hackでもSAOでも何でもいいのだが、何か自分のインターネットとバーチャル人格への期待の出発点はロックマンエグゼだったような気がしてならない。
ここには大きな違いがある。仮想「現実」すらもそれを生きるのは結局我々であり、リアルとインターネットの交錯は現実世界でも創作物の中でも主役は人間だ。
しかし俺の中には人間から切り離されたエーアイだとかコンピュータへの幻想が彷徨っていて、一人だけバーチャルという言葉の響きに対してサイバーパンク的な何かを期待している。
要は、配信者と視聴者という「人間と人間」で形作られるコミュニティがバーチャルの名を冠していることに対する、何とも言えない勝手な失望感があったのだ。
8年前には、とっくに答えがあった。
君に伝えたい言葉
君に届けたい音が
いくつもの線は円になって
全て繋げてく どこにだって
2011年っていつだよ。俺まだ中学生だよ。
最悪に穿った見方をすれば、一つのソフトウェア兼キャラクターを通じて、人間が世界観を発表することのインターネット感、的なものが天下のGoogle様によって規定されてしまった。
しかし当時とっくにオタクだった俺はこれに強い衝撃を受けた。カッコよかった。今見返してなお、スケールがデカくて、夢のある世界観だと感じる。
初音ミクという存在と、バーチャルYoutuberたちのモデル。同じ二次元美少女*1のアイコンに、何の違いがあるのだろうか。
ボーカロイドは世界観を持っていた。彼女たちの人格を作品にしたストーリーテラーとして代表されるのはやはりcosMo@暴走Pだと思う。『初音ミクの消失』はなんと2007年。俺まだ小学生だよ。
多くの傑作によって幾重にも色の塗られたキャラクターは、時にクリエイターの存在をろ過してしまう分厚いフィルターとして機能した。それはボーカロイドが一つの確固たる文化を構築するにあたって必須かつ重要なプロセスだったのではないかとは思う。
しかし、kzは彼女たちを取り巻くインターネットというものを天才的に表現して見せた。キャラクターと、クリエイター。『Tell Your World』とこのGoogle Chromeのコマーシャルは、ボーカロイドを取り巻く世界観を一段階昇華させたと言っても過言ではない。
どうしようもなく今を生きてる
この声が届く未来が 幸福だと言えるように
ただ謳おう Virtual to LIVE
で、これだ。
正直に言うと、この動画に出てくるキャラクター*2のほとんどは名前も知らない。ミリ知ら(死語)をやったらかなりトンチキかませるくらい知らない。
だからこそ、この曲をkzのDJプレイで初めて聴いたときの納得は大きかった。これが解答なのか、という感じだった。
10年代の終わりに、人間がいるからこそのバーチャル、というものに日本のオタクカルチャーは到達したらしい。その結実であるVtuberコミュニティの在り方とかは詳しくないし論じる気もないが、コンテンツの間口が広がったこの時代に人間が人間を集めるというのは至極当然なのかもしれない。
それでも俺と俺の周りのオタクたちは、古風気取り硬派気取りで2020年になってもニコニコ御三家(超絶死語)を擦ってたりするのだけど。
奇しくもStay Homeのご時世。Zoom飲み会なんてものが世に知れ渡ってきた中で、俺はオタクだからdiscordで酒を飲んでいる。WebEXで大学の授業も始まった。
プラットフォームの違いは大した問題じゃない。いずれにしたって、重要なのはインターネットのおかげで家の外に出なくても人間関係を維持できる時代だということだ。
ビジネスにおいてはそうもいかない業種もある。例えば俺の青春の全てであるゲームセンター。大型グループの店舗は休業を余儀なくされ、中小や個人経営の店舗は店を畳むところも出てきた。ライブハウス、クラブだってそうだ。音楽による熱狂と繋がりは、感染症の流行によっていとも簡単に脅かされている。
そんな中で、アーティスト、DJたちによる在宅配信、無人開催のムーブメントが巻き起こっているのは非常に良いことだと思う。どうか、一つでも多くの箱が生き延びて欲しい。
思い返せば『Virtual to LIVE』を初めて聴いたのはMOGRAのTwitch配信だった。
で、先日。そういったオンラインクラブイベントの一つで、kzのターンを見ていた。
多分ジャンプ込みのリンクになっているはずだが、そうでなければ手動で4:46:30に合わせてくれ。
『Tell Your World』と『Sad Machine』のマッシュアップから始まり、『Virtual to LIVE』で締めるこのセットリストは、kzによる2020年インターネットへのメッセージだと感じた。
And though I knou since you've again
She depends on you,
She depends on you...
まあ難しい話抜きにしても最高だったので是非視聴してほしい。
これからの10年、また新しいバーチャルの解釈が生まれて、俺はやはりそれについていけたりついていけなかったりするのだろう。それが結構楽しみである。
もっともそれは、俺や人類が生き延びたらの話だ。
バーチャルが夢物語から人間と密接な繋がりを持つようになったこの世界は今、その真価、あるいは進化を問われているような気がする。
(6/2 追記)
Twitchがリンク切れしてた。
ただ当該イベントについて主催のポーターに対するインタビューがあったので置いておく。これ見るにYoutubeにはアーカイブありそうかも?