(当記事は延々と樋口円香の話をします。直近の限定pSSR【ギンコ・ビローバ】の内容を中心に、ありとあらゆるコミュに関するネタバレを含みます)
!Caution!
この記事は2020年10月に書かれた記事です。よって当時存在したコミュについてしか触れていません。
G.R.A.D.編や【ピトス・エルピス】については以下の記事をご覧ください!
アイドルマスターシャイニーカラーズ、遊んでますか?僕は遊んでいます。
ちょうど四か月前、ノクチル最初のユニットイベント、天塵が出る直前ぐらい。その時点での公式供給をベースに、感じたことを書いただけの記事を出しました。
結構なPVを頂けたのもあり、樋口の事を知りたいという欲求も尽きる気配が無かったので、「次のpSSRが出たらそこまでのコミュで区切ってまたなんか書くか」とか思っていました。天塵以降もサポコミュやアジェンダ・ハロウィンとかいっぱい供給あったし、かつての自分の妄想と答え合わせするのも楽しそ~~
そして2.5周年Pカップが終わって*1、180連で迎え、家帰ってコミュを見ました。Trueを見ました。
甘えたことを言ってられなくなったので今こうして書いています。予定は変更、とにかくこの新カードについて自分の中で整理したい。確固たる解釈のアウトプットではなくただのブレインストーミング。
コミュ未読の人にはネタバレというより何言ってるかわからん文章になると思うので、さっさとガシャ回して引いてきてください。霧子もめちゃくちゃ強いし、次回更新の限定アルストに担当がいるんでなければ多分ここに全力が板です。
S1:『囀』
我らがシャニPが歌いながらお菓子を作る姿を、樋口と共にいきなり眺めるところから始まる。【カラカラカラ】のS1コミュ『ニガニガ』にも類似するコメディ調の話だが、後のS4コミュやTrueに直結する要素が多い。
樋口の中にある「芸能事務所のプロデューサー」のイメージと、シャニPの実態にはかなりの乖離があるようだ。そのイメージは恐らく、我々も想像出来るステレオタイプなものに近く、共通開始コミュ『夜に待つ』で示された「浅倉を言いくるめてアイドルをやらせる悪い大人」的側面も含むのかもしれない。
しかしそのお菓子作りは(息抜きではあっただろうが)サボりや趣味の時間ではなく、交流があった番組スタッフに教わったレシピの実践。
先日教わったレシピ、試してみたんですよ!いやあウチのアイドルたちにも好評で!などと言うことが出来れば、先方との距離もグッと縮むかもしれない。現実世界でも通用する、営業マンとしての重要スキル。樋口がやれやれと肩をすくめたはずのシャニPの言動は、なんのことはない、完璧なプロデューサー業の一環であった。
とはいえ樋口目線では、堅苦しいビジネスマン像とは全く別物のミスター・ミュージカル。まるで態度を変えることもなく、レッスン頑張って!とシームレスに「プロデューサー業」に移行する姿に、樋口は呆れたり皮肉を言ったり。
総じて、シャニPの「プロデューサー性」に裏表、オンオフの切り替えが無いことが示されるコミュだった。それは文字をそのまま読めばわかる簡単な部分でもあり、右選択肢;”持っていってくれ” を選んだ際に、お菓子作りの時間が昼休みをオーバーして午後の業務時間に食い込んでしまうシーンによっても暗示されている、かなり強いメッセージだ。
コミュ名に送り仮名をつければ、囀る(さえずる)。自由に歌っていいのは小鳥だけ。しかしコミュニケーションや繁殖の為に歌う小鳥もいる。オフィスで歌いながらお菓子を焼く成人男性も、ただ遊んでいるわけではなかったのだと知る。
S2:『信』
電車の中で、おそらくはアイドル雑誌を見ながら雑談に興じる女子高生二人と、移動中のシャニP・樋口。女子高生の片方は雑誌の樋口を昔のクラスメイトであると言い、顔はかわいいがアイドルをやるような子ではなかったと評する。
自分の感覚で言えば、この高校生二人に樋口は大して批判も馬鹿にもされていない。昔のクラスメイトというくらいだから、中学校か小学校高学年の頃だろうか。アイドルになれそうだね、に対する返事、「媚びるのは好きじゃない」。意外性は全くなく、アイドルになる前の樋口円香から出てきそうな言葉といっていいだろう。
仮に馬鹿にされていなくても、とにかく雑談のネタにされているのは事実。樋口を気遣い別車両への移動を提案しようとしたシャニPに、その必要は無いとメッセージアプリで返事する樋口*2。
分岐後で重要に感じたのは二つ。一つは上選択肢;"『でも』……" のラスト、『何も知らずにいてもらいます』『これからもずっと』。そしてもう一つは、右選択肢;”……『そうだな』”を選んだとき。樋口がこのコミュで初めて口を開き、誰彼構わず媚びるのは~を否定するシーン。
話は変わるが、ノクチル全員に共通するテーマに「言葉」がある。これは様々なコミュから読み取れるし、一周目pSSRのガシャにおけるガシャタイトルとフレーバーテキストでかなり明確に示されている。
具体例を出せば、浅倉は「言葉にしないことも伝わっている」ことを望んでいるし、樋口は「本心を知られたくないから言葉にしない」傾向がある。小糸は「敢えて言葉にすることで自分を支える」子。雛菜は「言外の意味なんてわからなくて良い」と考えていた節がある*3。そして、失敗してでも自分の思いを言葉に出すシャニPが彼女らを導いていくのが、ノクチルのプロデュースイベントの中核にあるテーマだと言えるはずだ。
その上で、樋口が自分の心変わりについて知ってもらう必要が無いと考えているのは至極当然の帰結に感じる。一方、別選択肢においては「媚びるのは好きじゃない」を女子高生の嘘であると口にする。
この「嘘」の意味するところは難しい。本当に女子高生がエピソードをでっちあげていたのかもしれないし、単に今の私はそんなこと思っていないとシャニPに伝えたかったのかもしれない。ただ、いずれにせよ少しらしくない言動だ。
かつての樋口であれば、「アイドルなんて媚びる仕事、好きじゃない」と思っているのだとシャニPに認識されるくらい気にもしなかったはずだ。それを(シャニPが眠りについたと思った後ではあるが)訂正しようとしたのは、ある種樋口なりのラインであり、これは言葉にして伝えなくてはいけないことだと感じたからであろう。
シャニPにはわかっていてもらいたいという事なのか、あるいはシンプルにアイドルとなった今は真剣であるという意思表示なのか、いずれにせよ樋口の変化を読み取れる、これが二枚目のpSSRであることを強く感じたシーンだった。
総じて、【ギンコ・ビローバ】内では、次のS3コミュと共に少し離れた位置にある話だと思う。シャニPの掘り下げ要素も強いこのカードの中で、一度ノクチル・樋口円香のメインテーマに引き戻されるコミュ。
送り仮名を付ければ、信じる(しんじる)、あるいは、信せる(まかせる)。『起こしませんよ』に『了解、ありがとう』と返す関係は、信頼以外の何物でもない。
S3:『噤』
オイオイ映画デートか!?と思わせて、やれやれ試写会に招待頂いただけであった。先方が是非樋口さんに、ということだったのか、所属アイドルなら誰でも、というところからシャニPのご指名だったのか。断定はしかねるが、映画関係者の様子を見るに前者だろうか。後者で樋口がついてくるともちょっと考えにくい。
【カラカラカラ】のTrueや、本カードと同日に実装されたホーム画面会話の一部を見るに、社交辞令というものは樋口の得意分野と言っていい。しかし、映画の感想は社交の域を出た立派なもので、興味を持った関係者によってヒヤリングへと移行していく。
選択肢によって話の広がり方にはバリエーションがある。左選択肢;”予定より長引いて悪かった” において繰り広げられる掛け合いは、シャニPも気付くように『囀』の回収であり、上・右選択肢は樋口の「言葉にしない」ことに対する考え方の掘り下げだ。
いずれにせよ、この映画は樋口にとってなかなか良かったものであるらしい。共通S3コミュ『二酸化炭素濃度の話』において顕著に見られた聡さは、創作物を読み取るときにもいかんなく発揮されるようだ。
『二酸化炭素濃度の話』は当時も今も樋口円香の事を考える際に重要なコミュだが、『噤』との間には、共に「樋口が直前の出来事について黙考しており、シャニPの話を聞いていない」ところから始まる、という大きな共通点がある。言葉に出す前に自分の中で深く考える。聞かれなければ外に出すつもりなど無かった、という描写は非常に多い*4。
それは恐らく彼女の信条であり、口にするこの映画の感想も、シャニPと二人きりのままであれば「まあ、良かったんじゃないですか」程度に留まったのであろう。しかし関係者が現れ多くを語ることになったように、アイドル”樋口円香”はそのままではいられない。アイドルは、表現することが仕事でもある。
自分の中の気持ちと、外に出てくる言葉。この境界線に対して誠実かつ慎重である樋口円香というキャラクターが、ラスト2コミュに向けたセットアップとして緻密に描写された。
噤む(つぐむ)。感情を無理に言語化せず、自分の中で整理したり、秘めておくことの重要性。なにかこう、今俺自身がやっている行為の正当性が危ぶまれるが、まあ致し方あるまい。
S4:『偽』
オーディション会場で、他プロダクションのアイドルと会話を交わす樋口。音量を上げれば、文字では描写されないセリフも聞き取ることが出来る。
「緊張なんて誰でもするでしょ、大丈夫」
「アイドルに真剣だからなんじゃないの? 落ちてもいいって思えないから。違う?」
自信を失った少女を、まるで自分の価値観と違う言葉で励まし続ける樋口。偶然か必然か、その言葉と姿はシャニPによく似ている。違いは、「今この子に必要なのはこの言葉だ」と判断して嘘を吐き続ける樋口と、心の底からその価値観を信じて言葉にしているシャニP。その違いは両者共に自覚していて、「私は優しくないので」「何を言うのが正解だったのか、今も考えているんだろうから」と言葉を交わす。
名も知れぬモブアイドルの悩みは、樋口にも通じるところがある。上選択肢;”それでも、よかった” の後に吐露される感情は、今まさに樋口が正解を探している問いの言い換えだ。寒風が吹きすさぶステージの上で、身を守るために多くのガワを着込むべきか、自らの内燃機関を燃やし続けありのままの姿を見せるべきか。
樋口は既に、前者の方が生きやすいことも、アイドルの目指すべき道が後者であることも知っていて、あるべき言葉を探り続けている。
偽る(いつわる)。自らを偽ることと、本当の自分を曝け出すこと。それがたとえ同値だったとしても、今していることがどちらなのかという認識は、アイドル達にとって大きな違いがあるはずだ。
True:『銀』
商店街の皆様から大人気のミスター・プロデューサー。ちょっと挨拶しながら歩いただけで、段ボールは奉納品でパンパンという有様。
シャニPは少し抜けた部分すらも自らの魅力に変換してみせる。事務所で歌いながら菓子を焼く姿さえも、プロデューサーとしての立ち回りの一環だった。樋口の皮肉めいた「完璧な自己プロデュース」という評を、「身の丈に合わないところまで精一杯『プロデューサー』でありたいだけ」と返すシャニP。それを突き通すことは、当然容易ではないにも関わらず。
大事なのは肩書きではなく何をするか。いや、肩書があるからこそ、それに見合う120%の立ち振る舞いを目標にする。幾人ものアイドルの目の前で、身を以って示し続けるシャニPは、『偽』で示された問いの強烈な模範解答だ。身に纏うガワさえ彼本人の一部であり、着込んでもなお内面の美しさは観客に届き続ける。
「スーツを脱いだら、そんなにできた人間じゃないからさ」
謙遜であり、強い言葉を使えば大嘘だ。樋口はそこではなく、「スーツを着ている間は、出来た人間だと自負していると」とシャニPを困らせるようなところをつつく。
会話描写はここで終わる。出発するまで、少しの弁解と皮肉が飛び交うのだろう。
「ああ」
「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」
言葉と立ち振る舞い、というテーマで緻密に描写を重ねたこのカードの最後のセリフとして、果てしないほどに重い。
この心境を産んだ樋口の感情はまとめきれない。彼女の中でも、整理しきれなかったが故に生まれた言葉、言うなれば呪詛だ。まとめるべきではない。樋口が楽ではないと切り捨ててきた生き方を、愚直に突き通す男がいる。アイドルとして歩み始めた今、そういう生き方を目指すべきかもしれない岐路に来ている。迷い、嫉妬、憧憬、その他諸々。
引き裂いてしまいたいのではない。引き裂かれてしまえばいいのだ。樋口円香が出会いから今まで、冗談程度から痛烈なものまで多くの皮肉をぶつけ、逆に自分の本心を晒してなお、シャニPが間違った姿を見せることなど無かった。
スーツが引き裂かれ「プロデューサー」でなくなったところで、シャニPの本質は決して変わらない。たとえ身を引き裂かれたとしても。そこにシャニPの偽りはなく、全てが一貫してシャニPの人格であるからだ。それでも、そんな男が、ぐちゃぐちゃに引き裂かれて苦しむ姿を見たいと願ってしまう。愛憎のベクトルではもはや測れない、強い強い感情だと思った。
銀。このタイトルに引っ掛けられた要素は片手では足りないかもしれない。明示されているところだけでも、銀杏、銀幕、雄弁/沈黙。自分が門外漢である文学分野でも何かヒントがあるという。
彼女が今沈黙を選んだ感情が、今後どのように変化し、外に吐き出されるのか、今後のコミュも楽しみでならない。
雑記
少し脇道に逸れた考えや、同日更新だったホーム会話について箇条書きで。
・シャニP担当は引けと言われるのも当然のカード。シャニマスをグレフェスのゲームと思っているモンスター以外全員引く価値があると断言する。GRADさえ来ちまえばグレフェスでも強そうだが……
・S2の「まかせる」。本文ではシャニPとの信頼についてのみ触れたが、「でまかせ」にも引っかかるのだから女子高生がパチこいてるのが本線で良さそう。
・Trueについて、Twitterでサジェストに別作品のキャラクター名が顔をのぞかせたように、類似の関係性は確かに存在する。だがこの感情をアイドルマスターでやっていいものなのか?
・このTrueが明かされたことで見方が変わる過去コミュが数個ある。【カラカラカラ】のS3、『掴もうとして』などが好例。あの笑顔と甘い声は好意なんて簡単なものではなく、居眠りなんて抜けたところを晒してくれたことに対する、明らかな安堵だ。
・樋口はまあ確実に、ダメ人間が好きなわけじゃない。シャニPくらいの完璧人間のダメなところが見てしまいたい。勘違いしたら危うい。浅倉?いやあ……
・季節でヘアピンの柄変えてるんですね。洒落てるねえ……惚れた女への闇落ち完了サインでヘアピン変える不埒な魔法少女もいるというのに。
・思い出アピール名は[不]言と読んでいいだろう。
・同日更新の越境ホーム会話は情報量が多い。【ギンコ・ビローバ】を読むにあたっても参考になる描写がいくつかある。
・S4において、樋口のアイドル観は飾ることなのか晒すことなのかと考えた。彼女自身がどうかはさておき、後者に分類されるようなアイドルと仲が良いように見える。
・というか咲耶に対する当たりが強すぎる。シャニPと同じ完璧属性を見出しているにしても、気を遣わなくていいですよ、が最悪の言葉選びになったのだとしても、誤解が解ければ良いのだが。
・冬優子とのアイドル観の相違はよく取り沙汰されていたが、まあ予想通りの社交辞令の応酬。お互い踏み込む気は一切なさそうだ。
・個人的には冬優子より夏葉と相容れないと思っていたので、そっちが心配だった。とはいえ後輩として無難に振舞うからふっつう。
・小動物属性に甘い。果穂、甜花はさておき、ちょこ先にも親身。幼女気質を性格や年齢ではなく外見で判断しているのなら、それはもうロリk……
・霧子とめちゃくちゃ距離が近い。ポエミーでシニカルな側面なんか、幼馴染とシャニPにしか見せないと思ってた。純然たる「良い子」の隣は居心地良さそうね。
・俺がずっと気になってたことをあさひが聞いてくれた。なんでだと思う?わかるわけねえ。ここでこう消化されると一生公式には明かされないかもしれない。
・最終的に、この更新でシャニP属性への感情と小糸属性への感情が概ね明らかになった。結果として浅倉への巨大感情の正体が不明になってしまった。